出産前後に何らかの原因によって脳の神経部分に傷がつき、出生児の運動発達に遅れが生じる脳性麻痺。MRI画像などで明らかになることが多いこの病気は一度発症すると、生涯に渡って付き合っていかないといけません。そんな脳性麻痺はどのようにして起きるのか、脳性麻痺と正しく向き合っていくために、脳性麻痺の原因や予防法について解説します。

■脳性麻痺はどんな疾患?

脳性麻痺は医学的に言うと、「受胎から生後4週間以内に起きた脳の非進行性病変」で、合併症としててんかんを発症させる確率も高いです。わかりやすく言いますと、受精のタイミングから生まれて4週間以内の新生児が発症する可能性のある、脳の疾患になります。胎児はこの4週間の間に脳に何らかのダメージを受けたことで脳性麻痺を患うのですが、脳性麻痺の症状としては大きく分けて主に3つのタイプがあります。

1つはアテトーゼ型です。こちらは中脳や基底核の部分にダメージが与えられた結果、手足や首、顔などがぐにゃぐにゃと勝手に動き出してしまう運動障害が表われます。

2つめは失調型です。こちらは小脳にダメージを受けた際に起こりやすく、上手く口が動かせない、体幹おバランスが悪く体を真っ直ぐ保てないために姿勢が悪い、一点を見ていられないなどの症状が表われます。

そして最後3つめ、痙直型です。こちらのタイプは脳性麻痺中約7割を占めると言われていて、大脳皮質にダメージが与えられた結果、手足に異常なほどの力が入ってしまい、真っ直ぐ伸びた状態で固まってしまう、痙縮という症状が表れます。

このように脳性麻痺は3つのタイプがあり、症状によって治療方法、発達の度合いなども異なるのが特徴です。
ただし、脳性麻痺の発生頻度は千人の胎児のうち約1~2例ほどと極めて低い割合の疾患です。脳性麻痺を引き起こす可能性がある行動は控えることが大切ですが、妊娠中心配するあまりに対応が過度に、ストレスを抱えてしまうことがないようにだけは注意しましょう。

また脳性麻痺はどんなに気をつけていたとしても、突発的に発症する可能性がある脳機能疾患です。もしもご自身のお子さんが治療や原因究明が難しい脳性麻痺を患っていたとしても、全く気に病む必要はありません。時間はかかりますが、脳性麻痺は原因に合わせて適切な治療を行うことで症状を改善できます。脳性麻痺と診断されても親御さんは思い詰めず、周囲のサポートを受けながら、今できることをお子さんにしていきましょう。

■脳性麻痺の原因は?

脳性麻痺の原因として明らかになっているものは複数あります。まず、出産前の妊娠中に起こるケースです。

1つめは、胎児発育不全によるものがあげられます。いわゆる低体重児の場合、脳が未成熟のまま生まれてしまったことで、脳にダメージが与えられる場合です。また他に考えられる胎児の体にまひを引き起こす原因は、体内感染症です。体内感染症は母胎が何らかの感染症を発症した際、体内の胎児も同じ病原体に犯される確率が高いです。その結果、母親の体を通して胎児は脳にダメージを受けます。

次に出産直後に起こりうる原因を解説します。1つめは新生児仮死状態によるものです。こちらは文字通り、生まれた直後に上手く呼吸ができず、心臓もほとんど動いていないような状態で生まれてきた胎児を指します。新生児仮死状態で生まれてきた結果、脳に十分な酸素が行き届かずに脳がダメージを受け、脳性麻痺へと発展するケースが多いのです。また、周産期感染症のような感染症、帝王切開、血糖値異常、多胎なども胎児が脳性麻痺を引き起こす原因になることもあります。

最後に出生後に脳性麻痺を起こしやすい原因についてですが、こちらは高ビリルビン血症という感染症が一番の原因です。赤ちゃんは生まれた直後、体内の赤血球の数が多く、数を調整するために赤血球を破壊するビリルビンという物質が多く分泌されるのですが、このビリルビンの数が増えすぎたことにより、赤ちゃんの赤血球が必定以上に壊されてしまい、黄疸の値も高くなり、脳の一部に深刻なダメージを与えられてしまいます。

こちらは核黄疸と呼ばれており、最も脳性麻痺を引き起こす原因の一つとして有名です。また出生後に母胎に病原菌が入っている場合、母乳を通じて赤ちゃんに病原菌が侵入し、脳性麻痺を引き起こすケースもあるため、感染症対策は徹底して行うべきでしょう。

どの時期にも共通して問題視されているのが、母子感染症が原因の脳性麻痺です。妊娠時はもちろん、出産時、出産後も継続して脳性麻痺を引き起こす原因となります。また胎内感染の場合は、胎児が重篤な先天性疾患を引き起こす場合もあります。近年では母子感染症が原因の脳性麻痺が増加傾向にありますので、充分注意する必要があるでしょう。

このように脳性麻痺はいくつかの原因によって発症するリスクが高まります。これから出産を控えている親御さんは、出来うる限りの対策を行って出産を迎えるといいでしょう。以下で、これから生まれてくる赤ちゃんの脳性麻痺を防ぐための方法をご紹介します。

■脳性麻痺を防ぐ方法

脳性麻痺は原因によっても予防方法が異なります。最も注意したいのが上記に挙げた情報の通り、母子感染症が原因の脳性麻痺です。

母子感染症の代表例として、人から人へと感染する梅毒やクラミジア感染症、HIV、風疹ウイルス、サイトメガロウイルスなどがあげられます。これらのウイルスは高い可能性で脳性麻痺を引き起こす可能性があるため、徹底した感染対策が必要でしょう。

妊娠した際にほぼ必ず、外来などで母体感染予防スクリーニングという検査が行われます。この検査サービスを受けると、感染症にかかっている場合はこのタイミングで発見でき、今後どのように治療をしていくべきかを医師と共に相談ができますので、早い段階で対策を練られるでしょう。妊娠の可能性がある場合は、母体のためにも赤ちゃんのためにも、早めに病院の外来に行くことが大切です。

また、脳性麻痺の小児は多くの場合、2歳頃までに症状が表れはじめます。脳の損傷によって始めて症状が表れる段階を一次障害と呼びますが、症状が進むに連れて二次障害と発展し、症状が重症化する恐れがあるでしょう。二次障害の場合は幼児期から成人期まで発症時期が広い為、後天的に脳性麻痺が見付かる事も珍しくありません。できるだけ早く発見し、原因に合わせた適切なリハビリとなる、機能回復のための運動等を行いましょう。

■脳性麻痺の症状を軽減させるために

脳性麻痺は一度発症すると、一生涯付き合わないといけませんが、リハビリ治療法を行うことで日常生活で困らない程度の状態に症状を押さえ込む、改善させることもできます。

ボツリヌス治療やバクロフェン髄腔内投与治療法など痙縮型に特化した治療法をはじめ、作業療法による運動リハビリテーションも重要な改善方法です。正しい療法、正しいリハビリテーションを行えば、脳性麻痺は決して怖い障害ではありません。これは一次障害、二次障害共に同じことが言えますので、症状に合わせて病院と療法などを相談し、不明な点は質問してみるといいでしょう。

一番大切なのは、症状を我慢せずにできるだけ早く専門機関で脳性麻痺関連の治療を受ける、ということです。現在一次障害の方は二次障害へと進まないように、二次障害の方は日常生活を少しでも快適に暮らせるように、医療や福祉関連でサポートを受けながら自分に合っている治療法や運動機能回復につながるリハビリテーションを試してみましょう。こうした施設の一覧情報は小児科の外来で尋ねてみてください。

脳性麻痺は完全に回復することはできない疾患ではあるものの、正しいリハビリさえ行えば日常生活に支障がほとんどないような状態にすることも可能です。そうするためにもできるだけ早くリハビリを始めることが大切ですので、何か心配なことがある場合は、普段通っている産婦人科医に質問するほか、脳性麻痺に関連した内容の本を読んで正しい情報を得たり、小児科などの専門機関で定期的に診察してもらったりすることを推奨します。

将来は、障害者の採用情報を用いて仕事を探すことができます。四肢や手足に麻痺がある場合は装具を付けながら、理解のある周囲のサポートを受けながら、日常生活を送れるでしょう。