■脳性麻痺の概要

脳性麻痺とは進行性の病気ではなく、生まれつきあった脳機能の異常や脳損傷により引き起こされた後遺症です。原因は出生前の脳の未発達や仮死、または妊娠中に感染した風疹、トキソプラズマ症等の感染症、分娩中に起こった酸素濃度が低くなる酸素欠乏によると考えられます。または未熟児として出生した場合も脳性麻痺の赤ちゃんになる可能性も否めません。MRI画像などから、医師に脳性麻痺と診断される月齢期は、早い場合は生後1ヶ月ですが、すぐに気づかれない場合もあります。

一般的な脳性麻痺の症状は、歩行困難、筋力低下の他に、少々ぎこちない姿勢や頭部、首、四肢の動きをする程度の軽度、体を動かせない重度までさまざまで、障害のタイプによって異なります。また、知的障害や行動障害、視覚や聴覚の異常、けいれん性疾患、てんかんなどの合併症が表れることも考えられます。中でも気になるのはてんかんです。脳性麻痺の合併症として、てんかんの発症率が非常に高いというデータがあります。発症率が特に高いのは、新生児の時にけいれんがあったケース、知的障害や運動障害のあるケースです。
しかし、脳性麻痺で死亡する割合は低く、そのまま個々の発達や変化を遂げて成人になります。有効といえる治療法は明らかになっていませんが、日常生活を送りやすくするための理学療法、作業療法、言語療法が存在し、日々大きく向上しています。また、薬や手術といった方法で症状が改善されたり、予防になったりしたケースも少なくありません。

■脳性麻痺の一般的な症状

脳性麻痺は主に次の4つの型に分かれ、それぞれ症状が異なります。

1. けい直型
2. アテトーゼ型
3. 運動失調型
4. 混合型

4つの中では、アテトーゼ型、けい直型に分類されるパターンが非常に多いです。それぞれの症状の特徴を説明します。

1. けい直型脳性麻痺

このタイプが発生する頻度は、脳性麻痺として生まれた小児全体の約70%と言われています。けい直とは筋肉がこわばるという意味です。体のあちらこちらに筋肉のこわばりが出て、筋力が著しく低下します。そして生活が困難になる次の4つ麻痺の症状が出るケースがあります。

 手足に見られる四肢麻痺の症状
 腕より脚の症状が重い両麻痺の症状
 片腕と片脚のみに見られる片麻痺の症状
 両脚、下半身だけに現れる対麻痺の症状

こうした麻痺症状が出ているために、腕や脚の発達は遅いです。どちらもこわばりがあり、筋力の低下が見られるのは明らか。また、足にも問題があり、歩き方や姿勢、動作が独特です。脚同士がぶつかりあいながら、交差する歩行スタイルやつま先で歩くスタイルなどが多く見られます。

目の特徴もこのタイプならではです。

 視線が交差している
 内に寄っている
 視線が定まらない
 斜視
 視覚障害

けい直型脳性麻痺の中で一番重く生活に支障があるのは、けい性四肢麻痺です。このタイプはけいれん発作や嚥下困難という問題以外に重い知的障害等も合併症として出ます。
嚥下困難の症状がある小児は、口の中や胃の中にある分泌物によってむせてしまい、呼吸がしにくくなることがあります。また誤って飲み込んでしまう誤嚥により、肺に炎症が生じて呼吸困難を起こしやすくなるでしょう。さらに、こうしたことを繰り返すことで、肺に回復不可能な傷を残すこともあり、呼吸に問題が出てくる可能性も否めません。

片麻痺や両麻痺、対麻痺の小児は知的障害が出ない場合も多く、けいれん発作が起こる割合は低いです。

2.アテトーゼ型脳性麻痺

アテトーゼ型の赤ちゃんが生まれる頻度は全体の約20%とされています。主な症状は腕や脚、体幹の筋肉が発達せず、身体が硬直してうまく動かないことです。その動きや姿勢は緊張したような感じにも見え、体をよじらせるように動く、いきなり動きだす、途切れながら動くといった特徴が見られます。こうした不自然な硬直した動きは、感情の起伏により、激しくなります。そのため、寝ている間は上記で挙げた身体の動きは見られません。
このタイプの小児は、知能的には正常児です。けいれん症状があるケースは、ほとんどありませんが、言葉の発音がうまくできないといった特徴があります。その他、主に見られる症状は、難聴や視線をコントロールできないことです。こうした症状の主な原因は、出生時に引き起こされた核黄疸と考えられます。核黄疸は、脳の障害で生理的な範囲を超えた黄疸です。

3.運動失調型縫製麻痺

このタイプは、体の動きを自分で調整することができません。特に歩行が難しいです。その数は、脳性麻痺の小児のうち約5%未満と考えられます。全身の動きのバランスがうまくとれないために筋力が発達せず、だんだん低下していくという症状が特徴的です。
このタイプの小児によく見られる症状は物を取るために手を伸ばすときに起こる振戦(ふるえ)です。また、早い動きや細やかな動きができないために、両脚が広がった不自然な歩き方になるのも特徴でしょう。

4.混合型脳性麻痺

このタイプの小児のほとんどは、けい直型とアテトーゼ型が入り混じっています。脳性麻痺の子供の大部分といっても良いでしょう。中には重い知的障害が合併症として表れる場合もあります。

■脳性麻痺の治療方法

上記で説明した内容は、整形外科、小児科といった医療関係で治すことが難しい症状です。しかし、筋肉のこわばりや不自然な歩行や姿勢は、理学療法、作業療法といったサービスを受けること、または身体に合う装具を使うことで軽減化します。
特に効果が高いとされているのは、リハビリテーションという方法です。可能な限り早期の低年齢時に行い、時間をかけることでいっそう効果が上がります。また、明瞭な発音で話す方法を取得する言語療法も嚥下障害の改善に役立ちます。

四肢すべてが麻痺していないケースだと、非麻痺側上股制御療法で、効果が上がる可能性があります。この療法は、麻痺のある部分のみを使って作業させるという方法です。施術している間、麻痺のないところは使えないように拘束します。施術効果は、脳の中に新しい経路が作成されることです。それによって、神経信号が麻痺した部分にうまく伝わる方法を体で覚えます。

また、入浴や食事、着替えといった行為を作業療法士と時間をかけて練習することで、コツがわかり、一人でこなせるようになる小児もいます。さらに日常生活を行うのに役立つ器具を使う方法も、時間をかけて教えれば問題なく行うようになるでしょう。
他にはポツリヌス毒素関連の筋肉注射も効果が見られます。この注射後は、筋肉の収縮が改善され、関節が硬直して働きが悪くなる拘縮(こうしゅく)になりにくくなります。

■脳性麻痺の今後の可能性

脳性麻痺の子供は、知的障害がなければ、健常児と同じ能力があるので、就学年齢になったら普通学級で授業を受けることで、他の子供と共に成長できます。また知的障害がある場合でも、就学年齢になれば、周囲の助けがある支援吸学校や支援吸で学びながら成長できます。脳性麻痺の子供の将来は、能力のある小児科や整形外科の医師によって行われる医療や多くのスタッフによる理学療法、教育、訓練、検査などによって支えられているのです。

また、脳性麻痺の未熟児や新生児を出産前後の母親、あらゆる年齢の脳性麻痺の子供を育てる親たちのケアも重要です。出産前後の人や妊娠中の人は、妊娠、出産後にお腹の赤ちゃんや生まれてきた新生児、未熟児が脳性麻痺とわかり、気持ちが不安定になったり、今後の生活に不安を感じたりしているかもしれません。そして、脳性麻痺の子供の介護を伴う日常生活に疲弊している親も多いでしょう。そんな妊婦、出産前後、子育て中の親はカウンセリングや相談窓口などを利用して、心の負担を減らした方が良いです。

こうした多くの脳性麻痺の子供を持つ親のために必要と思われるのは、脳性麻痺について学べる環境作りです。学んだり質問したりできる環境は病院の外来だけではありません。脳性麻痺の情報一覧を検索しやすいサイトマップにまとめたホームページや、わかりやすい内容で書かれている本があれば、助かる人も多いと推測できます。脳性麻痺の子育てで参考になる内容のページがあれば、なかなか整形外科や小児科の外来に行って質問できない妊娠中や出産前後の人、子育て中の親の助けになります。

今後は地域医療機関や全米脳性麻痺協会、社会復帰リハビリテーションサービスセンターのような公的機関や民間組織の支援を受けながら、医福連携で脳性麻痺への理解を深め、情報を共有することが望まれます。そのようにして支援の手を次々に広めていくことが、脳性麻痺のさらなる研究、調査とともに重要な課題でしょう。